網掛山(1133m)
2006年5月4日
網掛峠へ向かう古代東山道が通った中平(左) 網掛山東展望台から南アルプスを望む(右)
日本武尊も歩いたと言われる古代東山道は701年、近江国を起点に造られた道で、美濃の国から信濃の国を通り、
上毛野・下毛野を出羽・陸奥まで通じていた。
東山道の中でも信濃と美濃を結ぶ信濃坂は御坂峠と網掛峠越えの最大の難所と云われていた。
今回は、信濃坂の東端の下平から中平、網掛峠を経て網掛山を目指した。
標識版は見当たらないので、下平に駐車して、網掛峠に通じていると思われた阿智第三小学校横の道を進み、中央自動車道の下を潜って
中平に入ると、武田信玄が設置したといわれる小野川関所跡の石碑に出会う。
その横には、ウェリントンの「眺望絶賛の地」の碑が立っている。
後ろを振り返ると1893年5月12日に彼が見たと同じ南アルプスが眺望された。
東山道の石碑や大平神社を左手に見ながら、単調な杉林の林道を進むと、登山道になり標高971mの網掛峠に到着する。
現在では長野県には鉄道や自動車道で難なく入県できるが、古代はこの東山道の網掛峠が玄関口であったということは、
広大な信州はここより更に険しい国境に囲まれた陸地の孤島であった訳である。
山歩きは古代からの国境線を歩く場合が多いが、いつもながら、国境線の地形の凄さに感銘を受けている。
峠からは急坂になるが、植林が新緑鮮やかな自然林になり、紫色の三つ葉躑躅が至る所で満開の花々を見せてくれた。
山頂近くの尾根に案内板があり、山頂を通過して西200mの所に西展望台があり、恵那山やヘブン園原が展望出来るとの明示がある。
林の中の山頂は記念写真だけ撮り、西展望台に向かう。
木立が切り倒され、恵那山やヘブンスらしきものも見えるが、展望台にしてはすっきりしない。
再び先ほどの案内板に戻ってみると、西展望台の下に未だ整備中のコメントが書かれてあった。
その下に、550m先に東展望台があり、南アルプスの眺望は日本一の絶景で、大平神社への下山道ありと書かれてあった。
書かれた日付を見ると、2006年4月15日とある。
本当なら掘り出し物だと思ったが、
「ほんとに日本一かなあ??」と半信半疑で東展望台まで行って見ると、木立が大々的に切り倒されて、
120度の空間一面に南アルプスの全山が広がっている。
「眺望絶賛の地」で絶賛したウェリントンがこの地に立ったら、絶句して賞賛の言葉が見つからないだろうと思った。
展望台は、丁度、中央自動車道の網掛トンネルの上で、展望台から見下ろした絶壁の下がトンネルの出口になっていて、
目測で標高差500m弱、30度強の傾斜で落ち込んでいる。
アルプスの眺望絶景は鏡平の鏡池に映った槍から西穂までの眺望や
陣場山形の中央アルプス、天然公園の北アルプスなど、
色々頭に浮かぶが、 この展望台からの縦横の開放感とアルプスの威圧感は、誰でも簡単にくる事ができる条件を考えれば、
確かに日本一と云っても言い過ぎではないと確信した。
<長野県飯田市>
網掛山 地図の中央「+」印が山頂の場所です
古代東山道沿いに咲く桃花越しに南アルプスを望む(左) 南信州花桃街道に咲く紅白混合の大木(右)
網掛山の東展望台からの眺望を堪能した後、標識に従ってガイドブックに載ってない大平神社へのコースを下る。
登山道の踏み跡は確かで標識に従って下れば迷うことは無い。
それに、此方の登山道は自然林の中を通っていて、赤い躑躅の蕾がちらほら見える。
周りは若芽が映える躑躅の林が広がっていて、もう少し後なら素晴らしい情景を目にすることが出来たであろう。
里道になり、突然、権現様の横に出て、大平神社への道を見失った。
登山口を見つけることが出来ないまま、中平から下平へと歩く。
道沿いの農家の庭先ごとに、紅白の見事な花が咲いた花桃の木があり、地元の人の話では苗木の時に接木すると、1本の木に、
紅白とその中間色の花が段階的に混合して一度に咲くという。
この辺りは花桃街道と名付けられ、5月上旬が見ごろとあるので、最適の時期に遭遇した訳である。
展望台から真下に昼神温泉が見え、日帰り温泉の駐車場が満員になっていたので、それを目指し「ひるがみの森」に行き、
温泉で汗を流したが、予想通り、「湯ったりーな」と同様、泉質は全く期待外れであった。
昼神温泉の泉質は私が最も賞賛する温泉の一つであるが、これは飽くまでも源泉であって、有名温泉では何処でも同様らしいが、
湯の奪い合いで、新しいホテルや日帰り温泉では、加熱循環された湯はアルカリ温泉でも、あのつるつる感が全く感じられない。
最初に昼神温泉を訪れたときに、古びた湯治風の建物で、地元の人と一緒に入った時に経験した、あの驚きの湯の感触をもう一度
味わってみたいものである。
建物を出て、後ろに聳える網掛山を見上げたら、山頂付近の木が疎らになっていて、あそこが展望台だなと分る。
この展望台の眺望を他の山歩きの仲間にも是非見せたいものだと思いながら帰路に着く。
<長野県飯田市>